不正競争防止法
損害賠償
1.損害賠償
第4条
第4条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第15条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
第15条
第15条 第2条第1項第4号から第9号までに掲げる不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する第3条第1項の規定による侵害の停止又は予防を請求する権利は、その行為を行う者がその行為を継続する場合において、その行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から3年間行わないときは、時効によって消滅する。その行為の開始の時から20年を経過したときも、同様とする。
第4条
不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は、民法に基づく損害賠償請求と同様、積極損害だけでなく、消極損害(逸失利益)についても賠償と対象となります。
この場合の消極損害は、①被侵害者が自己の販売価格を下げることを余儀なくされたことによる損害と、②自己の販売数量が減少したことによる損害が挙げられます。
この点、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権の特徴として、損害額の推定の規定(不正競争防止法5条)が設けられていることが挙げられます。
すなわち、不正競争が行われたことにより被侵害者が被る損害の大部分は、消極損害(逸失利益)であるところ、かかる立証は困難であるため、販売数量が減少したことによる損害の立証が、同法5条に基づき容易化されているのです。
2.損害の額の推定等
第5条
第5条 第2条第1項第1号から第10号まで又は第16号に掲げる不正競争(同項第4号から第9号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。
3 第2条第1項第1号から第9号まで、第13号又は第16号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
- ① 第2条第1項第1号又は第2号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品等表示の使用
- ② 第2条第1項第3号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品の形態の使用
- ③ 第2条第1項第4号から第9号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る営業秘密の使用
- ④ 第2条第1項第13号に掲げる不正競争 当該侵害に係るドメイン名の使用
- ⑤ 第2条第1項第16号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商標の使用
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
第5条
不正競争防止法に基づく損害賠償請求の特徴として、損害額の立証を容易化するために、第5条において、損害額の推定規定が設けられています。
不正競争によって営業上の利益を侵害された者が侵害者に対して損害賠償を請求する場合には、自己の被った具体的損害額を立証しなければならないのが民事訴訟の原則です。
しかし、不正競争防止法第5条第1項では、
「侵害者による物の譲渡数量×侵害行為がなければ被侵害者が販売できた物の利益額」
を、被侵害者が受けた損害とすることができる、と規定し、上記の立証の困難性を緩和しています。
同様に、同法第5条第2項では、侵害者に対して損害賠償を請求する場合に、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を被侵害者の損害額と推定することができる、と規定されています。
さらに、同法第5条第3項では、商品名、商標、営業秘密、ドメイン名等を冒用した不正競争がなされた場合において、当該商品名や商標等の使用料相当額を、被侵害者の損害額とすることができる、と規定されています。
なお、第5条は、被侵害者による損害額の立証の困難性を緩和する趣旨の規定ですから、被侵害者が、第5条により認められる損害額を上回る損害を立証できた場合には、立証に成功した損害額の侵害者に対する賠償請求が可能です(第5条第4項)。