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不正競争防止法

手続(差止め・損害賠償・行政上の手続)

差止請求権

不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、侵害者に対し、侵害の停止や予防を請求することができます(不正競争防止法3条1項)。

また、被侵害者は、差止請求を行うに際し、侵害者に対し、侵害行為を組成したもの(侵害行為により生じた物も含みます。)を廃棄し、侵害行為に供した設備の除却その他の侵害の停止・予防に必要な行為を請求することができます(不正競争防止法3条2項)。

以下では、不正競争防止法3条1項の差止請求権を中心に説明します。

不正競争防止法3条1項の差止請求権は、不正競争防止法2条1項1号~15号までの全ての「不正競争」が対象となります。

また、「営業上の利益」とは、被侵害者の現実的な売上の減少以外に、企業としての信頼や評判、顧客吸引力のような無形の利益も含むと考えられています。

なお、被侵害者の社会的信用が侵害された場合には、差止請求のみならず、侵害者に対して謝罪広告の掲載など、信用を回復する措置を求めることができます(不正競争防止法14条)。

さらに、差止請求権は、まず、仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)という方法で行使されることが多いです。これは、被侵害者にとっては、不正競争による権利の侵害を停止し、又は防ぐ緊急の必要性が高いことから、訴訟という時間のかかる手続きよりも簡易迅速な仮処分という手続きの方が馴染むからです。

損害賠償

故意又は過失によって不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって発生した損害を賠償する責任を負います(不正競争防止法4条)。

不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は、民法に基づく損害賠償請求と同様、積極損害だけでなく、消極損害(逸失利益)についても賠償と対象となります。 この場合の消極損害は、①被侵害者が自己の販売価格を下げることを余儀なくされたことによる損害と、②自己の販売数量が減少したことによる損害が挙げられます。

この点、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権の特徴として、損害額の推定の規定(不正競争防止法5条)が設けられていることが挙げられます。 すなわち、不正競争が行われたことにより被侵害者が被る損害の大部分は、消極損害(逸失利益)であるところ、かかる立証は困難であるため、販売数量が減少したことによる損害の立証が、同法5条に基づき容易化されているのです。

損害の額の推定等

不正競争防止法第4条において説明したとおり、同条に基づく損害賠償請求の特徴として、損害額の立証を容易化するために、損害額の推定規定が設けられていることが挙げられます(同法5条)。

不正競争によって営業上の利益を侵害された者が侵害者に対して損害賠償を請求する場合には、自己の被った具体的損害額を立証しなければならないのが民事訴訟の原則です。
しかし、不正競争防止法第5条第1項では、
「侵害者による物の譲渡数量×侵害行為がなければ被侵害者が販売できた物の利益額」
を、被侵害者が受けた損害とすることができる、と規定し、上記の立証の困難性を緩和しています。

同様に、同法第5条第2項では、侵害者に対して損害賠償を請求する場合に、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を被侵害者の損害額と推定することができる、と規定されています。

さらに、同法第5条第3項では、商品名、商標、営業秘密、ドメイン名等を冒用した不正競争がなされた場合において、当該商品名や商標等の使用料相当額を、被侵害者の損害額とすることができる、と規定されています。

なお、第5条は、被侵害者による損害額の立証の困難性を緩和する趣旨の規定ですから、被侵害者が、第5条により認められる損害額を上回る損害を立証できた場合には、立証に成功した損害額の侵害者に対する賠償請求が可能です。

具体的態様の明示義務~相当な損害額の認定

民事訴訟におけるルールは民事訴訟法に定められていますが、不正競争防止法は、さらに、不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴訟についての特別なルールをいくつか設けています。

① 侵害者が、被侵害者による「侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様」に関する主張を否認するときは、侵害者は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければなりません(不正競争防止法6条)。
これは、侵害者による不誠実な訴訟対応により争点整理が適正かつ迅速に行われないことを防止する趣旨です。

② 裁判所は、申立てにより、当事者に対し、侵害行為について立証するため、又は侵害行為による損害計算をするための書類の提出を命ずることができます(不正競争防止法7条1項)。ただし、提出を拒む正当な理由があるときは、提出義務を負いません(同項ただし書き)。
これは、不正競争に関する訴訟では、帳簿等の必要な書類が侵害者から開示されない限り、被侵害者が損害を立証することができないため、民事訴訟法における文書提出命令の特則を定めたものです。

③ 当事者の申立てにより裁判所が損害の計算をするための必要な事項について鑑定を命じた場合、当事者は鑑定人に対し、鑑定のために必要な事項を説明しなければなりません(不正競争防止法8条)。
これは、鑑定人による正確・迅速な損害計算を担保する趣旨です。

④ 損害が生じたことが認められる場合において、損害額立証のために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができます(不正競争防止法9条)
これは、不正競争に関する訴訟においては、損害額の立証が困難であるため、裁判所による相当な損害額の認定を可能にし、被侵害者による立証を容易化したものです。

秘密保持命令~消滅時効

民事訴訟におけるルールは民事訴訟法に定められていますが、不正競争防止法は、さらに、不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴訟や実体関係についての特別なルールをいくつか設けています。以下では、10条以下に定める特別ルールを見ていきます。

① 不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴訟においては、当事者の申立てにより、裁判所は相手方当事者や、訴訟代理人、担当従業員等に対し、営業秘密の開示の禁止や目的外使用の禁止を命じることができます(不正競争防止法10条)。
秘密保持命令の制度がなければ、当事者は営業秘密の漏洩をおそれ、証拠の提出を差し控えてしまうかもしれません。この制度は、営業秘密が第三者に開示、漏洩されることを防止すること、また、かかる防止措置により営業秘密の提出を促進することにより、審理の充実化を図るために設けられています。

② 不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴訟において、裁判所は、当事者の意見を聴いた上で、当事者尋問や証人尋問を公開しないで行うことができます(不正競争防止法13条)。
裁判は公開が原則ですが、不正競争防止法13条は、営業秘密が公開の法廷で明らかになることを防ぐための例外を定めているのです。

③ 故意又は過失により不正競争を行って、他人の営業上の信用を害した者に対しては、裁判所は、被侵害者の請求により、損害賠償に代え、又は損害賠償とともに、信用回復措置を命じることができます(不正競争防止法14条)。
これは、民事訴訟における救済方法は金銭賠償が原則であるところ、営業上の信用を侵害された者の不利益は、金銭賠償だけでは不十分であることが理由です。
信用回復措置の例としては、謝罪広告の掲載、謝罪文の特定場所への掲示、取引先・関係先への訂正通知の発送等が挙げられます。

④ 営業秘密の不正使用に対する差止請求権は、被侵害者が侵害の事実及び加害者を知ったときから3年で時効消滅し、侵害行為開始時から10年間で行使できなくなります(不正競争防止法15条)。
営業秘密にかかる差止請求権の行使は、取引関係者らへの影響が大きく権利関係の安定要請が強いこと、また、長期間の経過により侵害の立証が困難になることから、その除斥期間は、民法724条よりも短くなっています。