不正競争防止法
不正競争 2条1項1号~15号
不正競争
- 2条1項1号(周知されている表示との混同)
- 2条1項2号(著名な表示の利用)
- 2条1項3号(商品形態の模倣)
- 2条1項4号(営業秘密の不正取得行為等)
- 2条1項5号(不正取得された営業秘密であることを知りつつ取得する行為等)
- 2条1項6号(事後に不正取得の事実を知りながら使用・開示する行為等)
- 2条1項7号(営業秘密の不正使用・開示)
- 2条1項8号(営業秘密が不正開示されたことを知りつつ取得する行為等)
- 2条1項9号(事後に不正開示の事実を知りながら使用・開示する行為等)
- 2条1項10号(技術的制限手段に対する不正競争行為)
- 2条1項11号(特定の者以外の者に対する技術的制限手段に対する不正競争行為)
- 2条1項12号(ドメイン名に関する不正競争行為)
- 2条1項13号(原産地等の誤認についての不正競争行為)
- 2条1項14号(他者の信用を害する不正競争行為)
- 2条1項15号(代理人等による商標の冒用行為)
2条1項1号(周知されている表示との混同)
1号では、他人の商品に関する表示(氏名や商号、商標、標章、容器、包装等)として需要者に広く認識されているものと同一・類似の表示を使用すること、又はそうした表示がされた商品を譲渡、展示、輸出入する等により、他人の商品・営業と自己のそれを混同させる行為を「不正競争」としています。
裁判例では、カメラメーカーの「ヤシカ」が、「ヤシカ」や「ヤシカ化粧品会社」といった表示を行って業務を行っていた企業に対して、差止請求等を行った事案において、これを他人の商品・営業と自己の商品・営業を混同させるものであるとして、不正競争防止法2条1項1号に該当する、との判断がなされています(東京地判昭和41年8月30日)。
このように、同種の業種でなく、異業種同士であっても、企業の系列上、何らかの関連があるのではないかと需要者が誤って認識する可能性が認められる場合には、1号に該当すると判断するのが裁判例に傾向です。
2条1項2号(著名な表示の利用)
2号では、他人の著名な商品に関する表示(氏名や商号、商標、標章、容器、包装等)を冒用する行為を「不正競争」としています。
裁判例では、ビタミン製剤の「アリナミンA25」を取り扱っている会社が、「アリナビッグA25」を製造販売する会社に対し、2号に該当することを主張したものがあります(大阪地判平成11年9月16日)。
この裁判例では、「アリナミンA25」の著名性が争点の一つとなりましたが、裁判所は、「アリナミンA25」が全国99%以上の薬局で取扱われていたこと、「アリナミンA25」が全国紙をはじめとした種々の媒体で広告されていたこと、当該宣伝に多額の宣伝費が支出されていたこと等を根拠に、「アリナミンA25」の著名性を肯定しました。
2条1項3号(商品形態の模倣)
3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡、展示、輸出入する等の行為を「不正競争」としています。
裁判例では、女性用下着のヌーブラにつき、被告の商品Bが原告の商品Aと同様に、ストラップも横ベルトもなく乳房に直接粘着し、自然な形で乳房を大きく形良く見せることのできるブラジャーであり、AとBでは商品名も包装箱の記載も相違するが模倣品を購入したにもかかわらず原告の商品Aを購入したと誤信した需要者から苦情が殺到したことがあり,商品形態の同一性が上記相違点を凌駕し,需要者において,商品Aと商品Bの出所の誤認混同を生じていたと言う事案において、不正競争防止法2条1項3号に該当するとしています。(ヌーブラ事件 大阪地判平成16年9月13日)。
2条1項4号(営業秘密の不正取得行為等)
4号は、①窃盗、詐欺、強迫その他の不正な手段により、営業秘密を取得する行為(「不正取得行為」と定義されます。)、及び②不正取得行為により取得した営業秘密を使用・開示する行為を「不正競争」と定義しています(なお、「営業秘密」については、2条6項の説明をご参照下さい。)。
4号~6号は、営業秘密の取得に不正な手段が介在する類型であり、7号~9号は、営業秘密の第一次取得は正当なものであった類型です。
第4号については、営業秘密の取得が、「窃盗、詐欺、強迫その他の不正な手段」によるか否かが主な争点となります。
裁判例では、営業秘密であるカートクレーンの設計図等を社外に持ち出してコピーした行為を、不正競争防止法2条1項4号の「その他の不正手段」としています(東京高判平成14年1月24日)。
このように、窃盗、詐欺、強迫そのものに厳密に該当しなくとも、これに類する不正手段により営業秘密を取得する場合も、4号に該当すると認めるのが、裁判例の傾向です。
2条1項5号(不正取得された営業秘密であることを知りつつ取得する行為等)
5号では、①第4号の不正取得行為が介在したことにつき悪意又は重過失により、営業秘密を取得する行為及び②そのようにして取得した営業秘密を使用又は開示する行為を「不正競争」と定義しています。
悪意とは、不正取得行為が介在したことについて知っていること、重過失とは、不正取得行為が介在したことを重大な過失により知らないことをいいます。
悪意又は重過失であれば、不正取得者からの第一次取得者だけでなく、第二次取得者以降も対象となります。
第5号を適用した裁判例は少ないですが、例えば、従業員が勤務先の会社から退職間際に不正に営業秘密を取得し(この従業員の行為は不正競争防止法2条1項4号に該当します。)、競業企業に転職した後、転職先の会社が悪意又は重過失で当該従業員からその営業秘密を受け取り、利用した場合には、転職先の会社は、第5号に該当すると認定される可能性があります。
2条1項6号(事後に不正取得の事実を知りながら使用・開示する行為等)
6号では、第4号の不正取得行為が介在したことにつき、取得後に悪意又は重過失となった場合に、その取得した営業秘密を使用又は開示する行為を「不正競争」と定義しています(悪意、重過失の意味については、第5号に関する説明を参照して下さい。)。
第5号と同じく、事後的に悪意又は重過失となった場合には、不正取得者からの第一次取得者だけでなく、第二次取得者以降も対象となります。
第6号を適用した裁判例も第5号と同様に数少ないのですが、例えば、営業秘密のライセンス契約を結んで営業秘密の提供を受けていたライセンシーが、実はライセンサーが当該営業秘密を第三者から騙しとってきたと知ったにもかかわらず、その後もその営業秘密を使用し続ける行為は、不正競争防止法2条1項6号に該当します。
ただし、不正競争防止法19条1項6号により、ライセンシーがライセンス契約に定める自己の権原の範囲内において営業秘密の使用、開示を行う場合は、「不正競争」には該当しません。
2条1項7号(営業秘密の不正使用・開示)
7号は、営業秘密を適法に取得した者が、不正な利益を得、又は営業秘密の保有者に損害を与える目的で、当該営業秘密を使用・開示する行為を「不正競争」と定義しています。
7号のように、不正な利益を得、又は営業秘密の保有者に損害を与える目的のことを「図利加害目的」といいます。
4号~6号が営業秘密の取得に不正な手段が介在する類型であったのに対し、7号~9号は、営業秘密の第一次取得は正当なものであった類型です。
第7号を適用した裁判例としては、DVDの複製を禁止するコピーガードの技術の利用を許諾した契約が解除された後にもかかわらず、解除前に取得したコピーガード技術を利用して、プログラムを作製した行為を、不正競争防止法2条1項7号の「不正競争」に該当するとしたものがあります(東京地判平成25年2月13日)。
2条1項8号(営業秘密が不正開示されたことを知りつつ取得する行為等)
8号では、①(ア)第7号の不正開示行為又は(イ)法律上の秘密保持義務違反による開示行為が介在したことにつき悪意又は重過失により、営業秘密を取得する行為及び②そのようにして取得した営業秘密を使用又は開示する行為を「不正競争」と定義しています。
悪意とは、(ア)又は(イ)が介在したことについて知っていること、重過失とは、(ア)又は(イ)が介在したことを重大な過失により知らないことをいいます。
悪意又は重過失であれば、不正開示者からの第一次取得者だけでなく、第二次取得者以降も対象となります。
第8号を適用した裁判例としては、会社を退職した従業員が、会社の現従業員に、営業秘密に当たる図面のコピーを取ってもらい、不正開示行為であることを知りながら受け取り、図利加害目的でそのコピーを他の企業に開示した例があります(知財高裁平成23年9月27日)。
まず、現従業員の行為は不正競争防止法2条1項7号の不正開示行為に該当します。そして、退職した従業員は、現従業員の行為が不正開示行為であることを知りつつ図面を取得し、その上で他企業に開示しているため、不正競争防止法2条1項8号に該当します。
2条1項9号(事後に不正開示の事実を知りながら使用・開示する行為等)
9号では、(ア)第7号の不正開示行為又は(イ)法律上の秘密保持義務違反による開示行為が介在したことにつき、取得後に悪意又は重過失となった場合に、その取得した営業秘密を使用又は開示する行為を「不正競争」と定義しています(悪意、重過失の意味については、第8号に関する説明を参照して下さい。)。
第8号と同じく、不正開示者からの第一次取得者だけでなく、第二次取得者以降も対象となります。
第9号を適用した裁判例は数少ないのですが、例えば、以下のような事例で同号が適用される可能性があります。
ライセンシーA社は、ライセンサーB社と営業秘密のライセンス契約を締結して営業秘密の提供を受けていました。ところが、その後、B社は、第三者であるC社との秘密保持契約に違反して、A社に営業秘密を提供していたことがわかりました。しかし、A社は、B社の秘密保持義務違反を知った後も、当該営業秘密の利用を続けました。
この場合でも、A社とB社間のライセンス契約に定める権原の範囲内であれば、不正競争防止法19条1項6号により、A社の行為は「不正競争」に該当しません。
しかし、A社がライセンス契約に定める権原の範囲外の行為を行えば、A社の行為は2条1項9号に該当する可能性があります。
2条1項10号(技術的制限手段に対する不正競争行為)
近時、映像や音楽作品等を自由にコピーや視聴できないように、こうした作品には技術的な制限が施されるようになってきています。
10号では、こうした技術的制限を妨げることができる装置やプログラムを譲渡し、引き渡し、展示し、輸出入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を「不正競争」と定義しています。
第10号は、平成23年に大きく改正され、現行の規定になりました。したがって、現行の第10号を適用した裁判例の数は多くはありません。
しかし、例えば、テレビ番組のDVDに施されているダビング禁止措置を外すための装置を販売することは、第10号に該当する可能性があります。
また、上記ダビング禁止措置を外すためのプログラムをインターネット経由で配信することも、第10号に該当するおそれがあります。
2条1項11号(特定の者以外の者に対する技術的制限手段に対する不正競争行為)
第10号で記載したように、近時、映像や音楽作品等を自由にコピーや視聴できないように、こうした作品には技術的な制限が施されるようになっています。
11号は、特定の者以外の者が自由にコピーや視聴等ができないように施されている技術的制限を妨げることができる装置やプログラムを譲渡し、引き渡し、展示し、輸出入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を「不正競争」と定義しています。
第10号は、すべての者に対して技術的な制限がかけられている場合である一方、第11号は、契約を締結した特定の者「以外の者」に対して技術的な制限がかけられている場合に適用される条項です。
第11号も、第10号と同様に、平成23年に大きく改正され、現行の規定になりました。したがって、現行の第11号を適用した裁判例の数は多くはありません。
しかし、例えば、ケーブルテレビの画面では、視聴契約者以外には視聴できないようになっていますが、こうした規制を外し、視聴できるようにする装置を販売することは、第11号に該当する可能性があります。
2条1項12号(ドメイン名に関する不正競争行為)
12号では、図利加害目的で、他人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品役務を表示するもの(特定商品等表示といいます。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、保有し、又は使用する行為を「不正競争」と定義しています。
図利加害目的とは、不正の利益を得る目的又は他人に損害を与える目的を言います。
近時は、「XXX.co.jp」(XXXの部分には企業名や商品名等が入ることが多いです。)といったドメイン名を使用して、多くの企業がウェブサイトを開設しています。ウェブ利用者は、一般的に、有名な企業名や商品名が含まれているドメイン名を使用したウェブサイトが、当該企業や商品に関連があるものと信頼してアクセスします。
12号は、こうした信頼を害する行為を「不正競争」と定めている、ということができるでしょう。
裁判例において、12号における類似性が肯定された例としては、「エーザイ(特定商品等表示)」と「e-zai.com(ドメイン名)」(東京地判平成19年9月26日)、「DENTSU(特定商品等表示)」と「dentsu.org(ドメイン名)」(東京地判平成19年3月13日)が挙げられます。
2条1項13号(原産地等の誤認についての不正競争行為)
13号は、①商品にその原産地、品質、内容、製造方法、用途又は数量について誤認させるような表示をし、又は②その表示がなされた商品を譲渡し、引き渡し、展示し、輸出入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を「不正競争」と定義しています。
また、13号は、原産地等が、商品そのものでなく、商品の広告や商品の取引に使う書類・通信に表示されている場合も、上記と同様の規制を行っています。
さらに、13号は、商品だけでなく、役務(サービス)にも同様の規制を行っています。
13号の適用においては、原産地の表示が問題となる場合が多いです。
原産地について誤認させるような表示であると裁判で認められた例は以下の通りです。
①「京の柿茶」という飲料商品に付された「京の」という表示は、当該茶の飲料の製造地や原材料生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府であることを表示するとの理解が一般であることから、原産地の誤認表示であるとした事例(東京地判平成6年11月30日)
②日本で製造された洋服に、英国の地名の英文字や図案をアイロンで押捺する行為は、生地が英国で製造されたものと誤認を生じさせるものであるとした事例(東京高判昭和49年7月29日)
③ヘアピン販売に際し、包装袋の表面に外国の国旗を印刷したシールを貼り、缶容器の蓋に販売者の商号を英語で記し、さらに、包装袋の裏面に「世界中のピンを集大成」などと記載した説明書を同封する行為は、当該外国において製造されたものと誤認させる可能性が高いとして、原産地誤認表示に該当するとした事例(大阪地判平成8年9月26日)
2条1項14号(他者の信用を害する不正競争行為)
14号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を「不正競争」と定義しています。
裁判例上、14号の「営業上の信用」は広く解されており、信用毀損の対象は、営利事業を行う者の営業に限られません。
具体的には、非営利事業を行う学校法人、宗教法人、医療法人等の事業に対する信用も14号における「営業上の信用」と該当するとされています(東京地判平成13年7月19日)。
2条1項15号(代理人等による商標の冒用行為)
15号では、パリ条約の同盟国、WTOの加盟国、商標法条約の締約国において、商標に関する権利を有する者の代理人・代表者等が、正当な理由なく、権利者の承諾を得ずに、①権利に係る商標と同一・類似の商標を、その権利にかかる商品に使用し、又は②当該商標を使用したその権利に係る商品と同一・類似の商品を譲渡し、引渡し、展示し、輸出入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を「不正競争」と定義しています。
また、15号は、現在代理人・代表者である者だけでなく、過去1年以内に代理人・代表者であった者も違反の主体としています。
さらに、15号は、商品だけでなく役務(サービス)にも同様の規制を行っています。
15号は、例えば、商標を有する外国企業が自社商品の日本進出のために、日本に代理店をおいて営業しようとした際に、その代理店が企業の承諾を得ずに、正当な理由なくその商標を使用して商品を販売したり、商標を登録した場合に適用されることが想定されます。