信託法
信託の終了及び清算
信託の終了事由
第百六十三条
信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
- 一信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
- 二受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
- 三受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
- 四受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
- 五信託の併合がされたとき。
- 六第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
- 七信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
- 八委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
- 九信託行為において定めた事由が生じたとき。
委託者及び受益者の合意等による信託の終了
第百六十四条
委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
- 2委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
- 3前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 4委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
特別の事情による信託の終了を命ずる裁判
第百六十五条
信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。
- 2裁判所は、前項の申立てについての裁判をする場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして申立てを却下する裁判をするときは、この限りでない。
- 3第一項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。
- 4第一項の申立てについての裁判に対しては、委託者、受託者又は受益者に限り、即時抗告をすることができる。
- 5前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判
第百六十六条
裁判所は、次に掲げる場合において、公益を確保するため信託の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより、信託の終了を命ずることができる。
- 一不法な目的に基づいて信託がされたとき。
- 二受託者が、法令若しくは信託行為で定めるその権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき。
- 2裁判所は、前項の申立てについての裁判をする場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして申立てを却下する裁判をするときは、この限りでない。
- 3第一項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。
- 4第一項の申立てについての裁判に対しては、同項の申立てをした者又は委託者、受託者若しくは受益者に限り、即時抗告をすることができる。
- 5前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
- 6委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人が第一項の申立てをしたときは、裁判所は、受託者の申立てにより、同項の申立てをした者に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。
- 7受託者は、前項の規定による申立てをするには、第一項の申立てが悪意によるものであることを疎明しなければならない。
- 8民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第七十五条第五項及び第七項並びに第七十六条から第八十条までの規定は、第六項の規定により第一項の申立てについて立てるべき担保について準用する。
官庁等の法務大臣に対する通知義務
第百六十七条
裁判所その他の官庁、検察官又は吏員は、その職務上前条第一項の申立て又は同項第二号の警告をすべき事由があることを知ったときは、法務大臣にその旨を通知しなければならない。
法務大臣の関与
第百六十八条
裁判所は、第百六十六条第一項の申立てについての裁判をする場合には、法務大臣に対し、意見を求めなければならない。
- 2法務大臣は、裁判所が前項の申立てに係る事件について審問をするときは、当該審問に立ち会うことができる。
- 3裁判所は、法務大臣に対し、第一項の申立てに係る事件が係属したこと及び前項の審問の期日を通知しなければならない。
- 4第一項の申立てを却下する裁判に対しては、第百六十六条第四項に規定する者のほか、法務大臣も、即時抗告をすることができる。
信託財産に関する保全処分
第百六十九条
裁判所は、第百六十六条第一項の申立てがあった場合には、法務大臣若しくは委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより又は職権で、同項の申立てにつき決定があるまでの間、信託財産に関し、管理人による管理を命ずる処分(次条において「管理命令」という。)その他の必要な保全処分を命ずることができる。
- 2裁判所は、前項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。
- 3第一項の規定による保全処分及び前項の規定による決定に対しては、利害関係人に限り、即時抗告をすることができる。
第百七十条
裁判所は、管理命令をする場合には、当該管理命令において、管理人を選任しなければならない。
- 2前項の管理人は、裁判所が監督する。
- 3裁判所は、第一項の管理人に対し、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況の報告をし、かつ、その管理の計算をすることを命ずることができる。
- 4第六十四条から第七十二条までの規定は、第一項の管理人について準用する。この場合において、第六十五条中「前受託者」とあるのは、「受託者」と読み替えるものとする。
- 5信託財産に属する権利で登記又は登録がされたものに関し前条第一項の規定による保全処分(管理命令を除く。)があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、当該保全処分の登記又は登録を嘱託しなければならない。
- 6前項の規定は、同項に規定する保全処分の変更若しくは取消しがあった場合又は当該保全処分が効力を失った場合について準用する。
保全処分に関する費用の負担
第百七十一条
裁判所が第百六十九条第一項の規定による保全処分をした場合には、非訟事件の手続の費用は、受託者の負担とする。当該保全処分について必要な費用も、同様とする。
- 2前項の保全処分又は第百六十九条第一項の申立てを却下する裁判に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を理由があると認めて原裁判を取り消したときは、その抗告審における手続に要する裁判費用及び抗告人が負担した前審における手続に要する裁判費用は、受託者の負担とする。
保全処分に関する資料の閲覧等
第百七十二条
利害関係人は、裁判所書記官に対し、第百七十条第三項の報告又は計算に関する資料の閲覧を請求することができる。
- 2利害関係人は、裁判所書記官に対し、前項の資料の謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付を請求することができる。
- 3前項の規定は、第一項の資料のうち録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、これらの物について利害関係人の請求があるときは、裁判所書記官は、その複製を許さなければならない。
- 4法務大臣は、裁判所書記官に対し、第一項の資料の閲覧を請求することができる。
- 5民事訴訟法第九十一条第五項の規定は、第一項の資料について準用する。
新受託者の選任
第百七十三条
裁判所は、第百六十六条第一項の規定により信託の終了を命じた場合には、法務大臣若しくは委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより又は職権で、当該信託の清算のために新受託者を選任しなければならない。
- 2前項の規定による新受託者の選任の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
- 3第一項の規定により新受託者が選任されたときは、前受託者の任務は、終了する。
- 4第一項の新受託者は、信託財産から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
- 5前項の規定による費用又は報酬の額を定める裁判をする場合には、第一項の新受託者の陳述を聴かなければならない。
- 6第四項の規定による費用又は報酬の額を定める裁判に対しては、第一項の新受託者に限り、即時抗告をすることができる。
終了した信託に係る吸収信託分割の制限
第百七十四条
信託が終了した場合には、当該信託を承継信託とする吸収信託分割は、することができない。
清算の開始原因
第百七十五条
信託は、当該信託が終了した場合(第百六十三条第五号に掲げる事由によって終了した場合及び信託財産についての破産手続開始の決定により終了した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)には、この節の定めるところにより、清算をしなければならない。
信託の存続の擬制
第百七十六条
信託は、当該信託が終了した場合においても、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。
清算受託者の職務
第百七十七条
信託が終了した時以後の受託者(以下「清算受託者」という。)は、次に掲げる職務を行う。
- 一現務の結了
- 二信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済
- 三受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済
- 四残余財産の給付
清算受託者の権限等)
第百七十八条
清算受託者は、信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 2清算受託者は、次に掲げる場合には、信託財産に属する財産を競売に付することができる。
- 一受益者又は第百八十二条第一項第二号に規定する帰属権利者(以下この条において「受益者等」と総称する。)が信託財産に属する財産を受領することを拒み、又はこれを受領することができない場合において、相当の期間を定めてその受領の催告をしたとき。
- 二受益者等の所在が不明である場合
- 3前項第一号の規定により信託財産に属する財産を競売に付したときは、遅滞なく、受益者等に対しその旨の通知を発しなければならない。
- 4損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、第二項第一号の催告をしないで競売に付することができる。
清算中の信託財産についての破産手続の開始
第百七十九条
清算中の信託において、信託財産に属する財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算受託者は、直ちに信託財産についての破産手続開始の申立てをしなければならない。
- 2信託財産についての破産手続開始の決定がされた場合において、清算受託者が既に信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者に支払ったものがあるときは、破産管財人は、これを取り戻すことができる。
条件付債権等に係る債務の弁済
第百八十条
清算受託者は、条件付債権、存続期間が不確定な債権その他その額が不確定な債権に係る債務を弁済することができる。この場合においては、これらの債権を評価させるため、裁判所に対し、鑑定人の選任の申立てをしなければならない。
- 2前項の場合には、清算受託者は、同項の鑑定人の評価に従い同項の債権に係る債務を弁済しなければならない。
- 3第一項の鑑定人の選任の手続に関する費用は、清算受託者の負担とする。当該鑑定人による鑑定のための呼出し及び質問に関する費用についても、同様とする。
- 4第一項の申立てを却下する裁判には、理由を付さなければならない。
- 5第一項の規定による鑑定人の選任の裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
- 6前各項の規定は、清算受託者、受益者、信託債権者及び第百八十二条第一項第二号に規定する帰属権利者の間に別段の合意がある場合には、適用しない。
債務の弁済前における残余財産の給付の制限
第百八十一条
清算受託者は、第百七十七条第二号及び第三号の債務を弁済した後でなければ、信託財産に属する財産を次条第二項に規定する残余財産受益者等に給付することができない。ただし、当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない。
残余財産の帰属
第百八十二条
残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
- 一信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
- 二信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
- 2信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
- 3前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。
帰属権利者
第百八十三条
信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
- 2第八十八条第二項の規定は、前項に規定する帰属権利者となるべき者として指定された者について準用する。
- 3信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
- 4前項本文に規定する帰属権利者となった者は、同項の規定による意思表示をしたときは、当初から帰属権利者としての権利を取得していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。
- 5第百条及び第百二条の規定は、帰属権利者が有する債権で残余財産の給付をすべき債務に係るものについて準用する。
- 6帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。
清算受託者の職務の終了等)
第百八十四条
清算受託者は、その職務を終了したときは、遅滞なく、信託事務に関する最終の計算を行い、信託が終了した時における受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)及び帰属権利者(以下この条において「受益者等」と総称する。)のすべてに対し、その承認を求めなければならない。
- 2受益者等が前項の計算を承認した場合には、当該受益者等に対する清算受託者の責任は、免除されたものとみなす。ただし、清算受託者の職務の執行に不正の行為があったときは、この限りでない。
- 3受益者等が清算受託者から第一項の計算の承認を求められた時から一箇月以内に異議を述べなかった場合には、当該受益者等は、同項の計算を承認したものとみなす。